夜行バスの旅はまあまあ快適で、良く寝られた。
早朝6時ころ目を覚まし、窓から外を覗くと京都に着いていた。さすがは京都、看板もなかなかスピリチュアル。
7時ころ、大阪駅付近で下車。阪急梅田駅内のミスタードーナッツで朝食を摂る。
「いらっしゃいませ~」のイントネーションが大阪弁で(当たり前だが)何だか感激。マックがマクドなんだからミスドはきっとミスドなんだよな、などとしょうもないことを思いながらドーナツをぱくつく。
ああ、国境は越えていないがここは異郷なんだ。
その後、阪急線→モノレールの乗換えで「万博記念公園」へ。大阪に来るついでにかねてから念願の「太陽の塔」と「民族学博物館」を見ておこうと持ったのだ。特に「民族学博物館」はアジアに行く前に是非見たい。
高速道路に並行してモノレールが走り、それを太陽の塔が見下ろす。
モノレールから見えた太陽の塔とそれを取り巻く風景は、もう嫌味なまでの未来感をたたえていた。
それも現代の夢もチボーもない未来ではなく、高度成長期の、まだその言葉にロマンが山盛りだった時代の「未来」である。
ちなみに公園に来ていた客層は圧倒的にシルバーだった。万博の未来に、少年少女~青年期に目を輝かせた層だろう。珍しいことに、私が一番ヤングであった。
太陽の塔を直に見るのは初めてだが、あのデザイン・形自体は散々テレビ・写真等で見ている。
だから実物を見ても新たな感動なんてない。岡本太郎が言うところの「何なんだ、これは!」と思うには、我々はもうあまりにも岡本太郎に慣れ過ぎているのだ、
なーんてわかったような批評めいたことを書こうかと思っていたのだけれど、
いざ見てみたらやっぱ思いましたね「何なんだ、これは!」って。
あの大きさの得体の知れないものが風景の中に立っているだけでもう「参った!」って感じ。
全高65メートルあるっていうからウルトラマン(身長40メートル)よりさらに大きい。デザインはウルトラ怪獣だし。
擬人化のレベルが中途半端なのも非常に薄気味悪い。人なのか、人じゃないのかハッキリしろ!って感じ。
やっぱ太郎ちゃん、凄いっすね!この機会に、いいもの見せていただいたと思う。
太陽の塔を堪能したあとは民族学博物館へ。
私は、先住民の仮面とか、織物とか、人形とかが大好きである。
不思議なことに、その当時「比較的」洗練されていたであろう文明の遺物って、全然興味がない。
「これは宋代の青磁でね」とか言われても「ふーん」って感じだ。
ところが、これは台湾原住民の刀ですよとか、パプアニューギニアの祭礼用の仮面ですよとか言われると、そういうものには無条件に全身が「ざわざわ」してしまうのだ。
おそらく私は、集落と森の境界の闇とか、彼らと、彼らの神の世界の接点とかそういうものに、現代人が失ってしまったことに必死で気づかない振りをして、挙句に精神疾患になっちゃうようなものの秘密があると思っているのだ。
そしてその秘密に、私自身ほとんど渇望と言っていいほど救いを求めているのだ、と思う。
もし、私の言っていることに「あぁ、わかるわかる」と思う人がいたとしたら、この施設はお勧めである。
ずいぶん写真を撮ったので一部をアップしたい。
太陽の塔、民族学博物館を堪能した後は、本日宿泊しようと思っている「あいりん地区」へ。
「あいりん地区」は日雇い労働者の泊まる”ドヤ街”として発達し、安い宿が密集していると聞いたからだ。
しかし、伝え聞く噂は芳しいものではなかった。「夜は出歩けない」「宿で何があっても文句は言えない」等など。いったい何がそんなに危険なのかわからないが、最近は海外からのバックパッカーを受け入れる安宿街として生まれ変わりつつあると言うし、そんなに極端なことは無いのではないか。まあ、覚悟だけはしておこう、と思い最寄駅「動物園前」を降りた。
日本を出る前に身ぐるみ剥がれたなんてシャレにもならない。恥ずかしいことこの上ない。
身構えて地下鉄を降りたのだ。
ところがである。
①電車を降りてすぐ、私の荷物から折りたたみ座布団が落ちた。気づかずに行こうとすると「強面」のおじさんが「にいちゃん、落としたで」と教えてくれた。
②目指す宿を探して地図を見ながら歩いていると、なかなか可愛らしい女性がこちらを凝視している。目が合うと近づいてきて「何か、助けること、ありますか?」と片言の日本語で言ってくれる。アジアのどこかから日本に来てこの街に宿泊している旅行者だった。しかし、目指すホテルは目の前だったので「大丈夫です。ありがとう」と言うと、さわやかな笑顔を残して去っていった。
③宿泊したホテルでカウンターの女性から「シャワーは共同で4時から入れるけど、みんな帰ってくると混むから、できたら4時すぐに入って」と言われる。4時になったのでタオルと石鹸を持ってシャワー室に向かうと別の部屋から年配の男性がやはりタオルを持って出てきた。あれ、この人もシャワーかなと思っていると向こうから「あなたもシャワー?じゃあ私は長いから、先に浴びて」と譲ってくれた。こちらも譲ったが、結局は甘える形になった。
④夜、食事した中華屋でお店の人に今回の旅の話をしたら「がんばって!」と激励され「アメちゃんあげる」とペロペロキャンディーをもらった。「ああ、本当にアメちゃんって言うんだ」ということも含め、なんだか感激した。
めっさ良い街じゃないですか!
危ない目には遭わず、むしろいろいろ親切にしてもらった。
もちろん、困窮しこの街に滞在している人もたくさんいるようだし、私の知らない「別の顔」もおそらくあるのだろう。しかし、旅行者としての目で見て、なんだか暖かくていい街だな、と思った。
すっかり大阪が気に入ってしまった私は、帰国して落ち着いたら、今度はもう一度”大阪旅行”に来ようと思った。
昼間っからあいりんの商店街の飲み屋でカラオケ歌っているオヤジさん達に混じって飲むのも悪くない。
最後に、あいりん地区で見かけ、「よし、この旅行がんばるぞ!」とテンションあがった、というのはウソで、なんだか腰砕けになった看板を紹介したい。