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列車の切符も取ったし、いよいよ最初の目的地にして大本命であるチベットへの玄関、成都へ向かう。

30数時間の二等寝台”硬臥”の旅である(本当はもっと短い時間で着く路線もあったのだが、私が間違えたのだ)。
実は期待していたのだ、硬臥。日本では路線が減ってしまった寝台車の旅。
旅情あふれていたり、出会いがあったりするのではないかと。

しかし、さすが中国。そんな甘いロマンの入り込む余地は無い。

 

駅の待合スペースは、さながら空港の広大さ・立派さである。

 

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しかし空港と違うのは、子供の物乞いが回ってくること。切符を買わないと入れないはずなのになぜ?

こちらも乗車待ちで”逃げられない”状態。仕方なく1元(約16円)ほどあげてしまうのだが、何人も回ってくるのでトータルではけっこうバカにならない出費になってしまう。

だったらあげなければいいじゃないか、と思うかもしれないが、中国人というのは行列で割り込んだりして自分のことしか考えていないように見えるのに、物乞いにはけっこうお金をあげたりする民族なのだ。その状況で、自分だけあげないというのは右へならえの国民性・日本人たる私の心臓ではムリなのだ。

 

ようやく列車に乗車。ほっと一息つく。だが安心はできない。


中国に限らず、公共交通機関での旅は周りの席・寝台の人によって大きく楽しさや快適性に差が出てくるものだ。
硬臥の寝台は縦三段の二列向かい合わせ、一つの区切りに6つの寝台がある形になる。
このときの私の場所は三段の真ん中”中舗”であった(ちなみに上段が上舗、下段が下舗)。

私の下の寝台には、年配の女性。そして私の上の寝台にはその息子。上下で親子に挟まれる形となった。
この息子、外見がまんま”のび太”。体格から言って高校生くらいだと思うが、のび太があのままの外見で成長した感じ。
こののび太、ことあるごとにはしごを降りて下段の母親に話をしに行くのだが、それは、まあいい。
問題なのは、はしごを上り下りするたびに必ず、寝ている私の足を踏んでいくのだ。
私が、はしごに足をかけているのなら仕方が無い。しかし、間違いなくベッドの上にある私の足を、なぜ毎回毎回100パーセントの確立で踏んでいくのか?
ね、感触で布団なのか足なのかわかるでしょ?もしかして、わざと?
8回目くらいでイライラが頂点に達した私が、彼が踏んだ瞬間に乱暴に足を動かしてアピールしたらさすがに踏まなくなったが。

私の向かいの寝台の列の中段と上段は、若いカップルであった。
24時間テレビのやつみたいなハデな黄色のTシャツをペアルックで着ていて、かなりイタい感じなのだが、それは、まあいい。
この二人のイチャイチャっぷりが、目に余るのだ。
上段と中段の三次元空間を縦横に駆使してお互いに対する劣情、おっと失礼、愛情を絶えず証明しようとするのだ。
さすがに最終段階には及ばないものの、最終段階に至るまでのあらゆることはことはやりつくしたのではないだろうか。
頼むからやめてくれ。目のやり場に困るし、こちとら孤独な一人旅なのだ。
とはいえ、こちらは止めるわけにも行かない。できるだけ見ないようにする。

寝台のつくり自体も結構きつい。
日本より大型の列車とはいえ、縦三段の寝台にはやはり無理があるようで、中段では上体を起こしたとき背骨を伸ばせないのだ。
どうしても背中が丸まり、漫画『ワイルド7』に出てきたエビフライの刑みたいな状態になってしまう。
自然、飛葉のような不屈の精神力を持ち合わせていない私としては常に寝た状態になるが、目は覚めているのに寝転がった状態というのも、何十時間も継続するとなるとつらい。

また日本とは違い、中国の寝台車の中は結構騒々しい。
みんな思い思いに、大声でしゃべる。
アジアの市場の喧騒を想像してもらえれば大体正確だと思う。賑やかな売り子の掛け声、テンポの良い値段交渉の掛け合い、あんな感じ。
問題なのは、消灯後もその状態に変化が無いことだ。
午後10時くらいが消灯時間だったと思うが、皆さん電気が消えてもどこ吹く風でマシンガントークを止めない。
まあ、深夜2時頃に目が覚めたら静かだったので、一晩中話しているわけではないようだが。

とまあ色々ありつつもなんとか眠りについている間に、列車は成都に近づいてきた。
乗務員に起こされ、目は覚めたのだが到着まではまだ時間がある。下車する準備を整え、寝転がって目を閉じていたら肩をゆすられた。
目を開けると、例ののび太である。
「到着ですよ」というようなことを中国語で言っているらしい。
うなずいて再び目を閉じると、また肩をゆすり「到着ですよ」と言ってくる。
なんだ、心配してくれているのか。のび太、案外いいヤツじゃないか。苛立ったりして悪かったな。
でももう起こさなくいいよ。今は寝起きの余韻を味あわせてくれ、お願いだから。

ってだから肩をゆするなっつーの!到着するのはもうわかったから!

 



成都に着いたのは早朝、まだ暗い時間だった。

 

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駅を出ると、目をギラギラさせたオヤジ達が口々に「ターチーターチーターチー」と呪文のように唱えながら群がってきた。
何を言ってるのかわからず怖いが、鋭く推測するに「タクシータクシータクシー」と言っているようだ。
予約してあるホステルまでは歩いていくつもりだったので「不要、不要」と言ってオヤジ達を蹴散らす。



しかし、地図では大したことない距離に見えたのに歩くとかなりあり、1時間ほどかかってしまった。しかも早朝の成都は

 

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こんな状態だったので疲れた上にとても怖かった。
汗まみれになって歩きながら、ああ、ターチー乗ればよかったなあ、と深く後悔した朝の成都であった。

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