康定の町
2013年7月21日朝8時半。
康定酒店駐車場を出発したバスはチベット最初の目的地”康定”に向けて走り出した。
約8時間のバスの旅である。
この道中についてはあまり書くことが無い。
ずっと道路と並行して流れていた川がほとんど氾濫状態で、水量も多い上に流れが速く「落ちたら絶対助からないな」と思ったことと、途中の休憩で立ち寄る場所のトイレが例外なくドアなしトイレだったことくらいだろうか(ドアなしトイレについては、私は何故か最初から全く抵抗が無かったのが我ながら謎である。前世の因縁だろうか)
そういえば、途中の休憩でこんなことがあった。
バスの外でくつろいでいると”体格を良くした岸田森”といった風貌のチベット人が鋭い視線でこちらを凝視している。
「あれ、オレ何かしたかな?オレのこと見てるんじゃないよね」と立ち位置をずらすが、やはり私を見ている。
何といっても岸田森似である。鋭く凝視されれば、怖いのである。
それに、私が目指しているカム地方はチベットでも気が荒い地域として有名だという。河口慧海の『チベット旅行記』にも”強盗の本場”なんて書いてある。
私を凝視している彼も、おそらくはカム出身に違いない。
そのチベットの岸田森が、私を見据えたままこちらに歩いてくる。
これはもう、本格的に何かまずいことをしたに違いない。知らない間にチベット人にとってのタブーを犯したとか。
外見は平静を装いながらも、内心ビクビクである。
私の前まで来たチベット人は、無言で私のカバンを指差した。
見ると、ジッパーが開いている。親切で教えてくれたのだ。
ありがとう。でもお願いだから、親切にするときは親切そうな表情をしてください。オシッコちびるかと思ったんだから!
尻と腰の痛みがが限界に達しようとする頃、バスは康定の町に着いた。
バスターミナルを出ると、旅館の客引きが群がってくる。
そのうち一人の年配の女性に連れられて、アパートの一室のような安旅館にチェックイン。
トイレ共同だが、なかなか綺麗で窓も大きい。窓の目の前が山というのも気持ち良い。
しかし、なんかこの部屋獣臭い!
私も中国に来てから、いろいろな”臭い”に慣れてきてはいる。
しかし、一晩中獣臭に包まれながら眠るというのはぞっとしない。
仕方が無いのでその日は我慢したが、翌朝バスのチケットを取るとすぐにチェックアウト。
別な旅館に鞍替えしたのだった。
今度の旅館はボロだが、個室内にトイレも付いていて良い感じだった。
が、そのトイレの臭いが部屋に充満していた!窓も無いので換気もできない。
それ以来、チベットで宿を決める際はまず部屋を見せてもらい、部屋の中で思いっきり深呼吸してから決めるようにしていた。
”旅館の部屋の臭い問題”はチベットではなかなか重要なのである。